法人として不動産を売却する際、個人売却とは異なる複雑な税制が適用されるため、税金は最も重要な検討事項です。適切な知識と対策がなければ、予期せぬ多額の税負担やリスクに直面する可能性があります。この記事では、法人不動産売却で発生する法人税、消費税、登録免許税、印紙税といった各種税金の種類と計算方法、譲渡益課税の具体例、減価償却費の取り扱いを徹底解説。さらに、売却時期の検討や特例制度の活用といった具体的な節税ポイント、税務調査への備え、専門家への相談の重要性まで網羅的にご紹介します。本記事を読むことで、法人不動産売却における税務の全貌を理解し、リスクを最小限に抑えつつ、最大限の利益を確保するための知識と戦略が手に入ります。
1. 法人 不動産売却の税金とは

法人が所有する不動産を売却する際には、個人が不動産を売却する場合とは異なる複雑な税金が課されます。これらの税金を正確に理解し、適切に処理することは、売却益を最大化し、予期せぬ税務リスクを回避するために不可欠です。本章では、法人による不動産売却の基本的な流れと、個人売却との税務上の主な違いについて詳しく解説します。
1.1 法人不動産売却の基本的な流れ
法人が不動産を売却する際の一般的な流れは、以下のステップで進行します。それぞれの段階で税務上の検討事項が発生するため、全体像を把握しておくことが重要です。
| ステップ | 概要 | 税務上のポイント |
|---|---|---|
| 売却決定・計画 | 取締役会での決議や事業計画への組み込み。売却価格の目標設定。 | 売却益の見込み、資金使途の検討。 |
| 不動産評価 | 不動産鑑定士による評価や市場調査を通じて、適正な売却価格を査定。 | 適正価格での売却は税務調査時のトラブル回避に繋がる。 |
| 媒介契約締結 | 不動産仲介会社との間で媒介契約(専任媒介、一般媒介など)を締結。 | 仲介手数料は経費として計上可能。 |
| 買主探索・交渉 | 買主を見つけ、売却条件(価格、引渡し時期など)について交渉。 | 交渉過程での価格変動が譲渡益に影響。 |
| 売買契約締結 | 買主との間で不動産売買契約を締結。手付金の受領。 | 印紙税が発生。契約内容が税務に与える影響を確認。 |
| 決済・引渡し | 売買代金の残金決済と、所有権の移転登記。 | 所有権移転登記に伴う登録免許税が発生。この時点で売却益が確定し、課税対象となる。 |
| 税務申告 | 決算期に合わせて、売却益に対する法人税などの申告・納税。 | 正確な譲渡益の計算と、消費税の申告・納税(課税事業者である場合)。 |
これらの流れの中で、特に売買契約締結時と決済・引渡し時に、具体的な税金が発生したり、税額が確定したりする重要なポイントがあります。それぞれの税金の詳細については、次章以降で詳しく解説します。
1.2 個人売却との税務上の違い
法人による不動産売却と個人による不動産売却では、課される税金の種類、計算方法、適用される特例などが大きく異なります。この違いを理解することは、法人として不動産売却を検討する上で非常に重要です。
| 項目 | 法人による不動産売却 | 個人による不動産売却 |
|---|---|---|
| 課税主体 | 法人(会社) | 個人 |
| 主な課税対象 | 法人税(所得税法上の譲渡所得ではなく、法人の事業所得の一部として課税)、地方法人税、消費税など | 所得税(譲渡所得として分離課税)、住民税、復興特別所得税 |
| 税率 | 法人の所得全体に対する法人税率が適用される(実効税率は約20%~30%台)。 | 譲渡所得の保有期間に応じて税率が異なる。 ・長期譲渡所得(保有期間5年超):所得税15% + 住民税5% = 20% ・短期譲渡所得(保有期間5年以下):所得税30% + 住民税9% = 39% (別途、復興特別所得税が加算) |
| 消費税 | 原則として課税対象となる(土地の売却は非課税、建物の売却は課税)。課税事業者の場合、消費税の申告・納税義務がある。 | 原則として非課税(個人が事業として不動産を売却する場合を除く)。 |
| 損益通算 | 不動産売却による損失(譲渡損)は、他の事業所得と損益通算が可能。繰越欠損金として最長10年間繰り越せる。 | 不動産売却による損失は、原則として他の所得(給与所得など)とは損益通算できない。特定の居住用財産の譲渡損失など、例外的に損益通算・繰越控除が認められるケースがある。 |
| 特別控除・特例 | 原則として、個人に適用されるような「居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除」などの特例は適用されない。特定の事業用資産の買換え特例など、法人が適用できる特例は存在する。 | 「居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除」や「特定の事業用資産の買換え特例」など、様々な特例が適用される場合がある。 |
| 減価償却費 | 不動産を事業用資産として計上している場合、売却時までの減価償却費を考慮して譲渡益を計算する。 | 個人の居住用不動産売却では、減価償却費の考慮は基本的に不要。事業用不動産の場合は考慮が必要。 |
このように、法人と個人では税制が大きく異なるため、法人として不動産を売却する際には、法人税、地方法人税、消費税などを中心とした税務知識が必要となります。特に消費税の扱いは個人売却との大きな違いであり、還付の可能性なども含めて慎重な検討が求められます。
2. 法人不動産売却でかかる税金の種類

法人が不動産を売却する際には、個人の不動産売却とは異なる様々な税金が課されます。これらの税金の種類と特性を正確に理解し、適切な税務処理を行うことが、予期せぬ負担を避ける上で極めて重要です。ここでは、法人不動産売却において主要となる税金の種類とその詳細について解説します。
2.1 法人税と地方法人税
法人が不動産を売却して利益(譲渡益)を得た場合、その利益に対して法人税と地方法人税が課されます。これらの税金は、法人の所得全体にかかるものであり、不動産売却益もその所得の一部として合算されます。法人税は国に納める国税であり、地方法人税は法人税額を課税標準として国に納める国税です。実質的には法人税と一体となって計算・申告されます。
2.1.1 譲渡益の計算方法
不動産売却における譲渡益は、以下の計算式で求められます。
譲渡益 = 売却収入 - (取得費 + 譲渡費用)
- 売却収入: 不動産の売却によって得られた金額です。
- 取得費: 不動産の購入代金や仲介手数料、購入時の登録免許税、不動産取得税など、購入にかかった費用全般を指します。また、建物の場合は、購入時からの減価償却費相当額を差し引いた金額(帳簿価額)が取得費となります。土地は減価償却の対象外です。
- 譲渡費用: 不動産を売却するためにかかった費用で、仲介手数料、印紙税、測量費、建物の取り壊し費用などが該当します。
特に、建物の取得費を計算する際には、購入時から売却時までの減価償却費を考慮に入れる必要があります。この減価償却費の計算は、建物の構造や用途、取得時期によって異なるため、正確な計算が求められます。
2.1.2 損益通算と繰越欠損金
法人税の計算においては、不動産売却による譲渡損益を含むすべての損益を合算して計算する「損益通算」が行われます。例えば、不動産売却で損失が出た場合、その損失を他の事業所得などと相殺することができます。これにより、課税所得全体を減らし、法人税等の負担を軽減できる可能性があります。
また、法人に赤字(欠損金)が発生した場合、その欠損金を一定期間(原則10年間)にわたって翌期以降に繰り越して、将来の所得と相殺できる「繰越欠損金」の制度があります。不動産売却で大きな損失が出た場合でも、この制度を活用することで、将来の税負担を軽減できる場合があります。
2.2 消費税
法人が不動産を売却する際には、消費税が課される場合があります。ただし、土地の売却は非課税であり、消費税が課されるのは建物とその付属設備に限られます。また、売主が消費税の課税事業者であるかどうかも重要な要素です。
2.2.1 課税対象となる不動産
消費税の課税対象となる不動産は、以下の通りです。
- 建物: 居住用、事業用を問わず、建物本体の売却には消費税が課されます。
- 建物に付随する設備: 空調設備、電気設備、給排水設備など、建物と一体となって機能する設備も課税対象です。
- 事業用資産としての不動産: 法人が事業として使用していた建物や設備を売却する場合に課税されます。
一方で、土地の売却、借地権や地上権といった権利の譲渡、住宅の貸付(居住用)などは、消費税の課税対象外(非課税取引)となります。これは、土地が消費の対象とは考えられていないためです。
2.2.2 消費税の還付について
消費税の課税事業者である法人が、課税仕入れ等にかかる消費税額が課税売上等にかかる消費税額を上回った場合、その差額の還付を受けることができます。不動産売却においては、建物の取得や改修にかかった消費税額と、建物の売却時に受け取った消費税額を比較し、還付が発生する可能性があります。特に、高額な建物を取得し、その後に売却するようなケースでは、消費税の還付が大きな金額になることもあります。
ただし、消費税の還付を受けるためには、消費税の課税事業者であることや、適切な帳簿書類の保存など、一定の要件を満たす必要があります。消費税の計算や申告は複雑なため、専門家への相談が推奨されます。消費税の仕組みについては、国税庁のウェブサイトでも詳細が確認できます。例えば、国税庁 消費税のしくみをご参照ください。
2.3 登録免許税
不動産を売却し、所有権が買主に移転する際には、その移転登記を行う必要があります。この所有権移転登記の際に課されるのが登録免許税です。登録免許税は、登記の種類や不動産の価額によって税額が異なります。
一般的に、不動産売買による所有権移転登記の場合、登録免許税は固定資産税評価額に一定の税率を乗じて計算されます。この税率は、土地と建物で異なる場合があります。また、買主が負担するのが一般的ですが、売買契約によって負担者が変わることもあります。
登録免許税の具体的な税額や計算方法については、法務局のウェブサイトなどで確認できます。
2.4 印紙税
不動産の売買契約を締結する際には、その契約書に印紙税が課されます。印紙税は、契約書に記載された契約金額に応じて税額が定められており、契約書に収入印紙を貼付し、消印することで納税します。
不動産売買契約書は、課税文書に該当し、契約金額が高額になるほど印紙税額も高くなります。通常、売主と買主が折半して負担することが一般的ですが、これも契約内容によって異なります。印紙税額は、国税庁のウェブサイトで確認できます。例えば、国税庁 印紙税額の一覧表をご参照ください。
2.5 その他の税金
法人不動産売却に関連して、直接的な売却益に課される税金以外にも、以下の税金が関わってくることがあります。
2.5.1 固定資産税と都市計画税
不動産を所有している限り、毎年固定資産税と都市計画税が課されます。不動産を売却した場合、これらの税金は引き渡し日を基準として日割り計算し、売主と買主で精算するのが一般的です。例えば、1月1日を基準日として課税されるため、年度途中で売却した場合は、売主が1月1日から引き渡し日まで、買主が引き渡し日から12月31日までを負担する形になります。
2.5.2 事業税と住民税
法人税と地方法人税の解説でも触れたように、法人税が課される所得には、法人事業税と法人住民税も課されます。法人事業税は、法人の所得に対して課される地方税であり、法人住民税は、法人の所得や資本金等の額に応じて課される地方税です。これらの税金も、不動産売却による譲渡益が法人の所得として計上されることで、その税額に影響を与えることになります。
法人事業税と法人住民税は、それぞれ都道府県と市町村に納める税金であり、税率や計算方法は地方自治体によって異なる場合があります。詳細については、各地方自治体のウェブサイトなどで確認してください。
3. 法人不動産売却における税金計算の具体例

法人による不動産売却では、売却によって生じる利益(譲渡益)に対して法人税等が課税されるため、その計算方法を正確に理解しておくことが不可欠です。ここでは、具体的なシミュレーションを通じて、税金計算の仕組みを詳細に解説します。
3.1 譲渡益課税のシミュレーション
不動産を売却した際に課税対象となる「譲渡益」は、以下の計算式で算出されます。
譲渡益 = 売却収入 -(取得費 + 譲渡費用)
この譲渡益が、法人の事業活動から生じる他の所得と合算され、課税所得が決定されます。具体的な事例を元に、譲渡益の計算から法人税等への影響を見ていきましょう。
【シミュレーション例】
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 売却収入 | 100,000,000円 | 不動産の売却価格 |
| 取得費 | 70,000,000円 | 土地取得費50,000,000円、建物取得費30,000,000円-減価償却累計額10,000,000円 |
| 譲渡費用 | 5,000,000円 | 仲介手数料、測量費、契約書印紙代など |
| 譲渡益 | 25,000,000円 | 100,000,000円 - (70,000,000円 + 5,000,000円) |
このシミュレーション例では、不動産売却により25,000,000円の譲渡益が発生しました。この譲渡益は、法人の事業年度の益金に算入され、他の収益と合算されて課税所得を構成します。仮にこの法人の他の事業所得が年間15,000,000円だった場合、総課税所得は25,000,000円+15,000,000円=40,000,000円となり、この金額に対して法人税、地方法人税、法人事業税、法人住民税が課税されることになります。実効税率は法人の規模や所得金額によって変動しますが、一般的には約25%~35%程度となります。
3.2 減価償却費の取り扱い
法人で不動産を所有している場合、建物などの償却資産については、時間の経過とともに価値が減少するという考え方に基づき、減価償却費を計上します。この減価償却費は、毎期の費用として損金算入されるため、課税所得を圧縮し、法人税等の負担を軽減する効果があります。
しかし、不動産を売却する際には、この減価償却費の取り扱いが「取得費」の計算に大きく影響します。税務上の「取得費」は、不動産を購入した際の価格から、売却時までに計上された減価償却費の累計額を差し引いた金額となります。これを「帳簿価額」と呼びます。
【減価償却費が取得費に与える影響の例】
- 建物取得価額:30,000,000円
- 売却時までの減価償却累計額:10,000,000円
- 税務上の建物の取得費(帳簿価額):30,000,000円 - 10,000,000円 = 20,000,000円
この例のように、減価償却費を多く計上しているほど、売却時の税務上の取得費は低くなります。その結果、「売却収入 -(取得費 + 譲渡費用)」の計算において、譲渡益が大きくなる傾向があるため、売却時の税負担が増加する可能性があります。減価償却の仕組みは、売却時の税金に直結するため、事前に会計上の帳簿価額と税務上の取得費を正確に把握しておくことが重要です。
4. 法人不動産売却の税金対策と節税ポイント

法人による不動産売却では、発生する税金を適切に管理し、法的に認められた節税策を講じることが重要です。ここでは、売却時期の検討から特例制度の活用、組織再編時の税務戦略まで、多角的な視点から税金対策と節税のポイントを解説します。
4.1 売却時期の検討
不動産売却の税金対策において、売却時期の検討は非常に重要な要素です。法人の事業年度全体の損益状況や将来の見通しを考慮し、最適なタイミングで売却を実行することで、税負担を軽減できる可能性があります。
- 損益通算の活用: 法人が不動産を売却して譲渡益が発生した場合でも、その事業年度に他の事業活動で損失が出ている場合、その損失と譲渡益を相殺(損益通算)することができます。これにより、課税対象となる所得を減らし、法人税等の負担を軽減することが可能です。
- 繰越欠損金の活用: 過去の事業年度で発生した欠損金(赤字)がある場合、一定の要件を満たせば、その欠損金を将来の所得と相殺することができます(繰越控除)。不動産売却益が発生する事業年度に繰越欠損金がある場合、これを活用することで、譲渡益に対する課税を大幅に抑えることが期待できます。
- 消費税還付のタイミング: 不動産の売却が課税売上となる場合、仕入れに係る消費税の還付を受けることができます。特に高額な不動産の場合、消費税還付のタイミングが資金繰りに与える影響も大きいため、売却時期と合わせて検討することが望ましいでしょう。
- 事業年度末との関連: 事業年度末に近い時期に売却を行うと、その期の決算に大きな影響を与えます。翌期に売却をずらすことで、納税時期を遅らせる、あるいは翌期の損益状況と合わせてより有利な税務処理を行うといった戦略も考えられます。
4.2 特例制度の活用
法人による不動産売却には、特定の条件を満たすことで税負担を軽減できる特例制度がいくつか存在します。これらの制度を理解し、自社の状況に合わせて活用することが節税の鍵となります。
| 特例制度名 | 概要と適用要件 | 節税効果 |
|---|---|---|
| 特定の事業用資産の買換え特例 |
事業用として使用していた土地や建物などを売却し、一定期間内に特定の事業用資産を買い換えた場合に、譲渡益の一部に対する課税を繰り延べることができる制度です。適用には、売却資産と買換資産の種類、売却価格と買換価格の割合、買換え期間などの要件があります。詳細は国税庁のウェブサイトなどで確認してください。 |
売却益に対する課税を将来に繰り延べることで、当期の税負担を軽減し、手元資金を確保することが可能になります。 |
| 圧縮記帳制度 |
国庫補助金や保険金、交換差益などを受け取って固定資産を取得した場合に、その取得価額から一定額を控除して帳簿価額を減額する会計処理です。結果的に、課税所得の計算上、益金算入額を減らすことができます。不動産売却の文脈では、例えば、公共事業のために不動産を譲渡した場合の代替資産取得に係る圧縮記帳などが該当します。 |
収益計上される金額を圧縮し、課税を繰り延べる効果があります。 |
| 特定の交換の特例 |
事業用固定資産である土地や建物を、他の事業用固定資産と交換した場合に、一定の要件を満たせば、交換によって生じた譲渡益に対して課税を繰り延べることができる制度です。金銭の授受がない等、厳格な要件が定められています。 |
資産の交換に伴う税負担を回避し、事業の継続性を維持することができます。 |
これらの特例制度は、適用要件が複雑であり、誤った解釈や適用は追徴課税のリスクを伴います。制度の利用を検討する際は、必ず税理士などの専門家と相談し、慎重に進めるようにしてください。
4.3 組織再編時の税務戦略
法人の組織再編は、事業戦略の一環として行われるものですが、その過程で不動産の移転が伴う場合、税務上の大きな影響が生じます。適切な組織再編スキームを選択することで、不動産売却にかかる税負担を最適化することが可能です。
- 会社分割の活用:
会社分割(吸収分割、新設分割)を利用して、不動産を特定の事業部門とともに他の法人へ移転させることができます。特に「適格分割」の要件を満たす場合、不動産の移転に伴う譲渡益課税を繰り延べることが可能となり、税負担を大幅に軽減できます。これは、事業の再編や特定の不動産を切り離したい場合に有効な手段です。
- 現物出資による不動産の移転:
不動産を子会社や関連会社への現物出資(金銭以外の資産を出資すること)によって移転させる方法です。この場合も、一定の要件(適格現物出資)を満たせば、不動産の譲渡益課税を繰り延べることができます。新たな事業会社の設立や、特定の資産をグループ内で集約したい場合に検討されます。
- 合併における不動産の取り扱い:
法人の合併(吸収合併、新設合併)においても、合併に伴い不動産が移転します。適格合併の要件を満たせば、不動産の移転に対して譲渡益課税は発生せず、合併後の法人に簿価が引き継がれます。M&A戦略の一環として、不動産を含む事業全体を承継する場合に重要な検討事項となります。
- M&Aにおける不動産取引の税務:
M&Aにおいて、対象会社の不動産をどのように取り扱うかは税務戦略の重要な部分です。株式譲渡によるM&Aでは、不動産の所有権は移転しないため、原則として譲渡益課税は発生しません。一方、事業譲渡や資産譲渡によるM&Aでは、不動産の所有権が移転するため、譲渡益課税や不動産取得税、登録免許税などが発生します。M&Aのスキーム選定時には、不動産の評価額や税務上の影響を十分に検討する必要があります。
組織再編税制は非常に複雑であり、その適用には厳格な要件が定められています。計画段階から税理士や弁護士などの専門家と連携し、適切なスキーム構築と手続きの実行が不可欠です。誤った処理は、予期せぬ多額の税負担につながるリスクがあります。
5. 法人不動産売却における注意点とリスク

法人による不動産売却は、多額の資金が動くため、税務上の影響が非常に大きくなります。そのため、適切な知識と周到な準備がなければ、予期せぬリスクや追加の税負担を招く可能性があります。ここでは、法人不動産売却を進める上で特に注意すべき点と、潜在的なリスクについて詳しく解説します。
5.1 税務調査への備え
不動産売却は、企業の資産状況や損益に大きな影響を与える取引であるため、税務当局から特に注目されやすい項目の一つです。売却後に税務調査が入る可能性は常に考慮しておくべきであり、万全の準備が求められます。
5.1.1 税務調査で確認される主なポイント
税務調査では、主に以下の点が重点的に確認されます。
- 譲渡対価の妥当性:売却価格が市場価格から著しく乖離していないか。特に、関連会社間での取引や、個人への売却の場合に厳しく見られます。
- 譲渡原価の正確性:取得費、改良費、付随費用などが正確に計上されているか。古い物件の場合、取得費の証明が難しいケースもあります。
- 減価償却費の計算:売却時までの減価償却費が適切に計算・計上されているか。
- 消費税の課税区分:土地と建物の区分、課税売上割合の計算、仕入れ税額控除の適用などが正しいか。
- 経費の妥当性:売却にかかった仲介手数料、測量費、登記費用などが適正に計上されているか。
- 契約書や関連書類の保管状況:売買契約書、重要事項説明書、領収書、請求書、固定資産台帳などの書類がきちんと整備・保管されているか。
これらのポイントに対し、いつでも説明できるような根拠資料を整理しておくことが重要です。特に、取得時の資料が不足している場合は、当時の状況を証明できる他の資料(登記簿謄本、過去の決算書など)を準備する必要があります。
5.2 追徴課税のリスク回避
税務調査の結果、申告内容に誤りや不足があった場合、本来納めるべき税金に加えて、追徴課税が課せられることになります。追徴課税は、単に不足分の税金を支払うだけでなく、加算税や延滞税といったペナルティも伴うため、企業の財務に大きな打撃を与える可能性があります。
5.2.1 追徴課税の主な原因と対策
| 原因 | 具体的な内容 | 回避策 |
|---|---|---|
| 譲渡原価の誤認 | 取得費や改良費の計上漏れ、または不適切な計上。特に古い物件や複数回の増改築を経た物件で発生しやすい。 | 取得時の契約書、領収書、工事明細などを徹底的に確認・保管し、専門家と相談の上で正確な原価を算出する。 |
| 減価償却費の計算ミス | 耐用年数や償却方法の誤り、売却時までの償却額の計算間違い。 | 固定資産台帳と税法上の規定に基づき、正確な減価償却費を計算する。 |
| 消費税の取り扱い誤り | 課税売上割合の計算ミス、仕入れ税額控除の適用誤り、非課税取引と課税取引の区分間違い。 | 消費税の課税事業者の判定、課税売上割合の計算、仕入れ税額控除の可否を慎重に判断し、必要に応じて専門家の助言を仰ぐ。 |
| 費用計上の誤り | 売却関連費用(仲介手数料、登記費用など)の計上時期や科目の誤り。 | 売却に関連する費用は、発生時期と会計処理基準に従って適切に計上する。 |
| 申告漏れ・申告誤り | 売却益の計上漏れ、特例制度の適用要件を満たしていないにもかかわらず適用したケース。 | 申告書作成前に、全ての取引を再確認し、税法上の規定と照らし合わせる。 |
追徴課税のリスクを最小限に抑えるためには、売却前から税務の専門家と連携し、適切な税務処理計画を立て、申告内容を複数回確認することが不可欠です。
5.3 専門家への相談の重要性
法人不動産売却における税務は、個人のそれと比較してはるかに複雑であり、多岐にわたる税法知識が求められます。そのため、専門家の知見とサポートは、リスク回避と最適な税務戦略の実現に不可欠です。
5.3.1 活用すべき専門家とその役割
- 税理士:
不動産売却に伴う法人税、地方法人税、消費税などの税額計算、申告書の作成・提出を代行します。また、売却時期や方法に関する税務上のアドバイス、節税対策の提案、税務調査時の対応サポートも行います。法人不動産売却の税務処理においては、最も中心的な役割を担います。
- 弁護士:
売買契約書の法的レビュー、売却条件に関する交渉、万が一の契約トラブルや紛争発生時の法的対応をサポートします。特に、複雑な権利関係を持つ不動産や、売主・買主間の意見の相違が大きい場合にその重要性が増します。
- 不動産鑑定士:
不動産の客観的かつ適正な市場価格を評価します。特に、親族間や関連会社間での売買など、第三者との取引ではない場合に、売却価格の妥当性を税務当局に説明するための重要な根拠となります。適切な鑑定評価は、不当に低い価格での売却による寄付金課税リスクなどを回避する上で有効です。
これらの専門家と売却計画の初期段階から連携することで、潜在的なリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることが可能になります。専門家への報酬は発生しますが、追徴課税のリスクや、不適切な税務処理による機会損失を考慮すれば、その費用対効果は非常に大きいと言えるでしょう。
6. まとめ
法人による不動産売却は、個人売却とは異なり、法人税、消費税、登録免許税など多岐にわたる税金が関係し、その計算や取り扱いが複雑です。
売却益の最大化とリスク回避のためには、譲渡益の計算、減価償却費の取り扱い、消費税の還付、さらには各種特例制度の活用など、正確な知識と戦略的な税金対策が不可欠となります。
税務調査への備えや追徴課税のリスクを回避するためにも、専門家である税理士に相談し、適切なアドバイスを得ることが、スムーズかつ有利な売却を実現する鍵となるでしょう。
