相続時精算課税制度のデメリットを徹底解説!制度の基本・手続き・注意点まで網羅
相続時精算課税制度は、贈与税と相続税を一体的に考慮できる仕組みであり、生前に大きな財産を贈与したい方にとって魅力的な選択肢といえるでしょう。ただし、この制度を選択すると、暦年課税制度の非課税枠110万円が利用できなくなるなど、いくつかのデメリットや注意すべき点があります。
令和6年に改正が行われ、一部の制度内容が変更される予定ですが、正確な知識がないまま利用すると後々の税負担が大きくなる可能性も否定できません。対策のポイントを理解していなければ、十分な節税効果を得られないばかりか、不必要なトラブルを招く恐れもあります。
本記事では、相続時精算課税制度の基本的な仕組みから改正ポイント、さらには具体的な手続きやデメリットの詳細まで、幅広く解説しています。制度の適用を検討している方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
相続時精算課税制度とは?令和6年改正のポイントと仕組みを総復習
まずは相続時精算課税制度の概要を理解し、暦年課税との違いや令和6年からの改正点を整理しましょう。
相続時精算課税制度は、生前贈与を行った時点で贈与税を支払い、相続時に改めてその贈与総額を合算して税額を精算する仕組みです。一般的な暦年課税では年間110万円までの贈与であれば非課税ですが、この制度を選択すると、その非課税枠を使えなくなります。
令和6年以降の改正では、相続時精算課税制度で贈与をする際に、一部110万円までの控除が認められるようになるとされています。しかし、この110万円は暦年課税とは独立した控除であり、暦年課税の110万円枠とは異なる点に注意が必要です。
したがって、改正により使いやすさは向上するものの、制度そのものの特徴やデメリットを正しく把握していないと、予期せぬ税負担の増加を招く恐れがあります。制度適用の可否は複数の視点から慎重に検討しましょう。
制度の概要と暦年課税との違い
相続時精算課税制度は、累計2,500万円までの特別控除枠を利用できるため、大きな金額を生前に贈与しやすい点が特徴です。一方で、贈与税を前払いする形となり、相続時に贈与額も含めて再度相続税を計算します。
暦年課税では毎年110万円までの非課税枠が利用できますが、相続時精算課税を一度選択すると、その110万円の恩恵が使えなくなる点は大きな違いです。利用できる年次や金額の仕組みが変わるため、しっかりと理解する必要があります。
また、贈与税の申告手続きが必須となり、相続開始後は贈与時の時価で財産を合算して相続税を計算します。慣れていないと煩雑に感じる点も、暦年課税との大きな相違点でしょう。
令和6年からの改正内容と適用対象者
令和6年からの改正では、相続時精算課税制度での贈与に対し110万円の控除が認められるため、多額の贈与が行いやすくなる見込みです。これにより制度の利用を検討しやすくなったといえます。
ただし、この110万円控除は暦年課税の110万円とは別枠であり、贈与ごとに自動的に適用されるわけではありません。誤解して利用すると、期待した節税効果が得られない可能性があります。
また、相続時精算課税制度を使おうと考えている人は、贈与者・受贈者ともに年齢要件などの適用要件を満たす必要があります。自分が制度対象者になるかどうかは、事前に正確に確認しましょう。
相続時精算課税制度を利用する前に押さえるべきポイント
制度を選択するにあたり、特に重要となるポイントを解説します。
相続時精算課税制度には多くのメリットがありますが、いざ利用するとなると長期的な視点での検討が欠かせません。一度選択すると変更ができない点はもちろん、手続きや税務の流れを正しく把握していないと、想定外の税負担や申告漏れが生じるリスクがあります。
贈与内容や資産の種類によっては、相続時に受けられる各種特例が使えなくなるケースもあるため、自身の財産状況と今後の資産の推移を見据えた計画的な対応が大切です。
選択すると暦年課税に戻れない点に注意
相続時精算課税制度を一度選択すると、翌年以降に暦年課税制度へ戻ることはできません。暦年課税であれば毎年110万円の非課税枠を利用できるため、継続的に贈与を行いたい場合は暦年課税の方が有利になる可能性があります。
この取り消し不可の特徴は大きなデメリットでもあるため、制度を利用する時期や金額を慎重に判断する必要があります。短絡的に「大きな額をすぐに贈与できる」という点だけに着目すると、後日後悔するケースもあるでしょう。
たとえば、予想外に財産規模が増えたり家族構成が変化したりすると、暦年課税の非課税枠を活用した方が税務上メリットが大きくなる場合があります。長期的な相続対策としてあらゆるシナリオを考えることが肝心です。
贈与税・相続税における課税対象と申告手続き
相続時精算課税制度では、贈与を受ける度に贈与税の申告が必要となり、相続時にはすべての贈与額を合算して相続税を計算します。同制度を利用することで大きな贈与が可能になりますが、その分手続きが複雑化する点に気をつけましょう。
初回の贈与時には特例適用届出書を提出し、贈与するたびに贈与税申告書を用意します。申告を忘れたり期限を過ぎると、特例が適用されなかったり追加徴税が課せられるリスクがあります。
さらに、相続開始後は贈与財産の評価や資産の合算処理が必要となるため、手続きを正確に行うためには専門家のサポートも検討することをおすすめします。
改正で追加された110万円控除に対する誤解
令和6年からは、相続時精算課税制度においても110万円の控除が受けられることになり、利用しやすくなる点は注目されています。ただし、これは暦年課税の110万円基礎控除とは別物であり、両者を混同しないように注意が必要です。
この改正により、実質的には贈与額の一部に非課税枠が設けられますが、全体としての制度設計や税負担の変化を十分に比較検討する必要があります。改正後でも、贈与時から相続時点までの流れは複雑で、メリットとデメリット両方が存在します。
新制度のイメージを安易に捉えてしまうと、後になって「思ったより節税効果がなかった」という事態に陥る可能性があります。仕組みの使い方を誤解しないよう、制度改正の詳細をチェックしましょう。
小規模宅地等の特例が使えなくなるケース
不動産を相続時精算課税制度で贈与すると、相続時に本来であれば受けられるかもしれない小規模宅地等の特例が適用できなくなるケースがあります。これは、自宅の敷地や事業用の宅地を相続する際の節税策が消えてしまう可能性を意味します。
特に、土地の評価は金額が大きくなるため、この特例の有無が相続税負担の大小を大きく左右することがあります。生前贈与での節税メリットと、小規模宅地等の特例の適用可否を比較しながら検討しましょう。
なお、改正に伴い管理の仕方が変化する可能性もあるため、土地や不動産をどのように処分または承継するかという視点でも、早めに対策を考えるのが賢明です。
相続時精算課税制度のデメリット:9つのポイント
相続時精算課税制度を利用するにあたって、特に知っておくべきデメリットを9つにまとめました。
この制度には財産を一度に大きく移転できるメリットがありますが、それ以上に細やかなリスクや副作用も存在します。以下の各ポイントをしっかり理解してから検討を進めることで、予想外の不利益を回避しやすくなるでしょう。
① 一度選択すると暦年課税へ戻れない
相続時精算課税制度を選択した後は、非課税枠110万円を活用できる暦年課税には戻れません。贈与を長期的に行いたい場合や、毎年少しずつ財産分与したい場合には不利になる可能性が高いでしょう。
この取り消し不能という特性が最も大きなデメリットであるため、贈与する財産の種類や贈与のタイミングを慎重に見極める必要があります。
② 相続税の負担が増える可能性がある
生前に大きな額を贈与した場合でも、相続開始後に贈与額を合算して相続税を再計算します。そのため、結果的に相続税自体が増える可能性もあり、想定していたより節税効果が薄れることがあります。
特に、相続財産が基礎控除を大きく超える方や将来さらに財産が増える見込みのある方は、節税になるどころか相続税額が高くなりやすい点を把握しておきましょう。
③ 贈与財産が値下がりしても贈与時の評価額が基準となる
相続時精算課税制度では、相続時には贈与時点の評価額をもとに相続税計算をします。そのため、贈与後に財産価値が下落した場合でも当初評価額が反映されるため、実質的に割高な課税となるリスクがあります。
値下がりリスクの高い不動産や株式を贈与する場合には、今後の価格変動をある程度見通してから判断する必要があるでしょう。
④ 小規模宅地等の特例が適用できなくなる
本来なら相続時に宅地の評価額が大きく減額される小規模宅地等の特例が、生前贈与を選択したことで利用できなくなるケースがあります。この特例を逃すと、大きな節税チャンスを逃してしまうかもしれません。
特に、親が自宅として住んでいる土地や事業用の宅地を生前贈与する際には注意が必要です。相続時の状況も踏まえたマネジメントを行いましょう。
⑤ 不動産取得税や登録免許税などの負担増
相続よりも生前贈与のほうが不動産取得税や登録免許税の税率が高く、思わぬ出費を伴いやすいとの指摘があります。特に、不動産を中心に財産を保有している方は大きなコスト増になるリスクがあります。
最終的なコスト負担を軽減するためには、単に贈与税や相続税だけでなく、不動産取得税や登録免許税、さらには医療費控除の可否など、各種費用とのトータルバランスを考えて計画を立てることが重要です。
デメリットを補う制度のメリットとは?
さまざまなデメリットがある一方で、相続時精算課税制度を利用するメリットも存在します。
相続時精算課税制度には、使い方次第では大きな節税効果を得られたり、相続トラブルを防止できたりするメリットがあります。デメリット部分を理解したうえで、メリットとのバランスをどう図るかがポイントです。
以下では、代表的なメリットを4つに分けて解説し、具体的にどのような状況で役立つかを考えてみましょう。
① 累計2,500万円までの特別控除が活用できる
相続時精算課税制度では、贈与税の特別控除として累計2,500万円までの枠が用意されています。暦年課税の年間110万円枠とは別に、多額の贈与を行う際の選択肢となります。
例えば、不動産や株式などをまとめて贈与して相続財産から外しておきたい場合に、一定の贈与税を支払っても全体の税負担が軽減される可能性があります。
② 多額の生前贈与による早期相続対策が可能
相続開始後だと細かい遺産分割協議が必要になるため、家族間で意見が分かれ、トラブルが生じることがあります。あらかじめ生前に財産の大部分を分割しておくことで、遺産分割協議の争点を減らすことができるでしょう。
こうした事前対策は、特に事業承継や不動産管理をスムーズに進めたい方には有効です。
③ 相続のトラブルを未然に防止しやすい
高額な財産や不動産をめぐる争いは、家族関係に大きな亀裂を生むことが少なくありません。相続時精算課税制度を利用して生前に財産を移転することで、相続時の争いを軽減できる可能性があります。
ただし、家族間の合意形成が不十分なまま贈与を行うと、後々別の問題が浮上する場合もあるため、よく話し合ったうえで手続きを進めることが大切です。
④ 将来値上がりが予想される資産の税負担軽減に役立つ場合がある
株式や不動産などで、将来価値が上昇すると見込まれる資産を早めに贈与しておけば、相続時には贈与時点の評価額で税額を計算する仕組みが生かされ、大きな節税につながる場合があります。
このメリットは、特に不動産価格や株価が高騰する可能性のある資産を所有している方にとって、有益な検討材料となるでしょう。
どんな人が利用すべき?相続時精算課税制度を活用したいケース
利用することで得られるメリットが大きいのはどのような人か、代表的なケースを示します。
すべての方に相続時精算課税制度が適しているわけではなく、財産の種類や規模、将来的な価値変動の見込みなどによって向き・不向きが分かれます。以下のようなケースに当てはまる方は、制度利用を検討する価値があるかもしれません。
相続財産が基礎控除内に収まる見込みの人
相続時精算課税制度を利用して一時的に贈与税を支払っても、最終的に相続財産が基礎控除内に収まり、相続税がかからない可能性のある方はメリットが大きいです。
相続財産の総額を正確に把握するのは難しい部分もありますが、将来的に大幅な資産増が見込まれない場合には、早めに贈与しておくことで税負担を抑えられるでしょう。
収益物件や事業用資産の贈与を考えている人
賃貸物件など安定的に収益が見込める資産は、相続時に大きな評価額となり、相続税が高額になる可能性があります。相続時精算課税制度を使って早めに子世代へ移転しておけば、課税対象となる資産を抑えることにつながります。
特に事業用資産をスムーズに継承したい場合にも有効で、後継者への引き継ぎが計画的にできる点がメリットといえるでしょう。
値上がりが見込める不動産や株式を所有している人
高騰が予想されるエリアの不動産や、成長が期待される株式を保有している際には、価値が上がる前に贈与しておくことで相続時の課税評価を低く抑えられます。結果的に、将来の相続税を減らすことが可能です。
ただし、値上がりどころか値下がりのリスクもあるため、資産の種類や経済状況を冷静に見極める必要があります。
暦年課税での贈与を細かく行う必要がない人
毎年コツコツと110万円ずつ贈与を行うのではなく、ある程度まとまった金額を一度に移転したい場合は、相続時精算課税制度の特別控除枠が役立ちます。家族構成や財産の種類によっては、手間を大きく削減できるでしょう。
ただし、一度制度を選択すると暦年課税に戻れないことを考慮し、どの時点で利用を開始するか計画的に判断しましょう。
相続時精算課税制度を利用する際の申告手続きと注意点
制度を実際に使う際に不可欠な申告手続きの流れと、注意すべき点を整理します。
相続時精算課税制度は申告の手順が複雑であるため、十分な知識がないまま準備を進めるとミスや期限切れを起こしやすいのが実情です。特に相続が発生したタイミングは忙しくなる傾向があるため、生前の段階から必要書類や情報を整理しておくとスムーズに対応できます。
申告時には税金だけでなく、贈与後の財産管理や相続人間の合意状況など、総合的に確認しておくべき事項があります。専門家との連携のもとでしっかりと手続きを進めることが失敗を防ぐ鍵となるでしょう。
初回贈与時と毎年の贈与税申告の流れ
最初に相続時精算課税制度を利用して贈与を行うときには、贈与税申告書とともに「特例適用届出書」を税務署へ提出します。これを提出しなければ制度が適用されないため、忘れずに行いましょう。
初回以降も贈与を行うたびに申告が必要であり、毎年1月1日から12月31日までの贈与を翌年2月1日から3月15日までに手続きするのが原則です。期限を守らないと余計な負担が発生するリスクがあります。
書式の記入漏れや必要書類の不備など、想定外のトラブルを防ぐためにも書類準備は早めに着手することが望ましいです。
相続時に合算される財産の確認と追加申告
相続開始後、過去に贈与した財産を含めて相続税を計算する点が相続時精算課税制度の大きな特徴です。生前に贈与した資産の評価額や控除残額を正確に把握しておかないと、誤った税額を申告してしまう可能性があります。
相続税の申告期限は相続発生から10か月以内とされていますが、遺産分割協議や財産調査などに時間がかかるため、その前に贈与分を含めた資産状況をしっかり洗い出す必要があります。
追加申告や修正申告が必要になることもあるので、不安がある場合には税理士などの専門家へ積極的に相談すると良いでしょう。
まとめ・総括:デメリットを正しく理解して賢く贈与を活用しよう
相続時精算課税制度には多くのメリットがある一方、取り消しが難しい点などのデメリットも存在します。制度を有効活用するために、改正点や制度の基本をしっかりと把握し、最適な相続対策に役立てましょう。
相続時精算課税制度は、大きな贈与がしやすい一方で、暦年課税には戻れない、将来の相続税が増える可能性があるなどのデメリットを伴います。制度のメリット・デメリットの両面を把握したうえで、贈与のタイミングや財産の種類を見極めることが欠かせません。
令和6年の改正によって利用の幅が広がる一方、制度選択後の取り消しが難しい点は変わりません。最終的には専門家の意見も踏まえながら、家族構成や資産状況に最適な形で制度を使いこなしていきましょう。

