実家の不動産相続は、何から手をつければ良いのか、どのように進めるべきか悩む方が少なくありません。特に不動産の「査定」は、相続税申告や遺産分割、売却価格に直結するため、その目的や種類を正しく理解することが不可欠です。この記事では、相続発生時の初期対応から、目的別の不動産査定の種類と選び方、査定依頼の準備と流れ、そして相続税や遺産分割協議に関する注意点まで、実家の不動産相続をスムーズに進めるために必要な知識と具体的な手順を網羅的に解説します。適切な知識を得ることで、不必要なトラブルを避け、適正な評価額で相続・売却を進めることが可能になります。
1. 実家の不動産相続でまずすべきこと
実家の不動産相続は、大切なご家族を亡くされた悲しみの中で、さまざまな手続きを進める必要があり、精神的にも大きな負担となりがちです。しかし、適切な手順を踏むことで、その後の手続きをスムーズに進めることができます。ここでは、相続発生後、まず最初に取り組むべき重要な事柄について詳しく解説します。
1.1 相続発生時の初期対応
相続が発生した際、悲しみに暮れる間もなく、いくつかの初期対応が求められます。これらの初期対応を適切に行うことが、その後の不動産相続手続きを円滑に進めるための重要な第一歩となります。
1.1.1 死亡診断書・死体検案書の取得と死亡届の提出
まず、医師から「死亡診断書」または「死体検案書」を受け取ります。これは、死亡の事実を公的に証明する書類であり、その後のあらゆる手続きの基礎となります。死亡診断書・死体検案書を受け取ったら、原則として死亡を知った日から7日以内に、役所に「死亡届」を提出する必要があります。これにより、故人の戸籍が抹消され、住民票が除票となります。
1.1.2 葬儀の手配と関係者への連絡
死亡届の提出と並行して、葬儀の手配を進めます。また、親族、友人、会社関係者など、故人と生前親交のあった方々への連絡も必要です。この際、香典や供花の辞退、葬儀形式など、故人の生前の意向やご遺族の希望を考慮して進めましょう。
1.1.3 遺品の整理と貴重品の確認
葬儀後、故人の遺品整理に着手します。この段階で、遺言書、通帳、印鑑、保険証券、年金手帳、権利証(登記識別情報通知)、金融機関からの郵便物、税金関係の書類など、相続手続きに必要となる可能性のある重要な書類がないかを確認し、大切に保管してください。特に、金庫や引き出しの奥など、普段あまり開けない場所にも注意を払って確認することが重要です。
1.1.4 預貯金口座の凍結と一時的な生活費の確保
故人の預貯金口座は、相続財産を保全するため、金融機関によって凍結されるのが一般的です。凍結されると、原則として相続人全員の同意がなければ払い戻しができなくなります。そのため、当面の生活費や葬儀費用に充てるため、早めに金融機関に連絡し、必要に応じて「仮払い制度」の利用を検討しましょう。これは、相続開始後の一定期間内に、一定額を上限として預貯金の一部を引き出すことができる制度です。預貯金の仮払い制度については、こちらの情報も参考になります。預貯金仮払い制度の利用について
相続発生後の主な初期対応とその期限の目安を以下の表にまとめました。
| 対応事項 | 目安となる期限 | 補足事項 |
|---|---|---|
| 死亡診断書・死体検案書の取得 | 死亡後速やかに | 医師から発行されます |
| 死亡届の提出 | 死亡を知った日から7日以内 | 役所に提出。故人の戸籍が抹消されます |
| 葬儀の手配 | 死亡後速やかに | 宗教や地域の慣習に従って行われます |
| 遺品の整理・重要書類の確認 | 葬儀後 | 遺言書、通帳、権利証などを探します |
| 預貯金口座の凍結・仮払い制度の検討 | 死亡後速やかに金融機関へ連絡 | 生活費や葬儀費用の確保のため |
| 相続放棄・限定承認の検討 | 自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内 | 負債が多い場合に検討します。詳細は相続放棄の期間は3ヶ月!期限を過ぎた時の対処法や期間伸長の申立を解説!もご参照ください。 |
| 準確定申告 | 相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内 | 故人の所得税の確定申告です。納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告) |
| 相続税の申告・納税 | 相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内 | 相続税が発生する場合に必要です。相続税の申告と納税 |
1.2 遺言書の有無の確認と相続人の確定
初期対応と並行して、相続手続きの根幹となる「遺言書の有無の確認」と「相続人の確定」を進める必要があります。これらは、その後の遺産分割協議や不動産の名義変更に直接影響を与える極めて重要なプロセスです。
1.2.1 遺言書の有無の確認
故人が遺言書を残しているかどうかを確認することは、相続手続きの方向性を決定づける最も重要な要素の一つです。遺言書がある場合とない場合とでは、遺産分割の方法が大きく異なります。
- 自筆証書遺言: 故人が自分で作成し、保管している場合があります。自宅の金庫、引き出し、仏壇の中など、故人が大切にしていた場所を探しましょう。2020年7月10日からは、法務局で自筆証書遺言を保管する制度も開始されており、法務局に問い合わせることも可能です。自筆証書遺言書保管制度のご案内
- 公正証書遺言: 公証役場で作成された遺言書です。公証役場では、遺言者の生年月日などを伝えることで、公正証書遺言が作成されているかどうかの照会が可能です。最も確実性が高く、偽造や紛失のリスクが低い形式です。
- 秘密証書遺言: 内容を秘密にしたまま作成される遺言書です。公証役場で存在が証明されますが、内容は開封するまで分かりません。
遺言書を発見した場合は、勝手に開封せず、家庭裁判所で「検認」手続きを行う必要があります(公正証書遺言および法務局で保管された自筆証書遺言を除く)。検認手続きを経ずに開封すると、5万円以下の過料に処せられる可能性がありますので注意が必要です。検認手続きは、遺言書の存在と内容を相続人全員に知らせ、偽造・変造を防止するためのものです。遺言書の検認については、裁判所のウェブサイトもご参照ください。遺言書の検認
1.2.2 相続人の確定
遺言書の有無にかかわらず、故人の正式な相続人が誰であるかを確定させることは、相続手続きの絶対的な前提となります。相続人を確定させるためには、故人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)を取得し、相続関係図を作成する必要があります。これは、見落としなくすべての相続人を特定するために不可欠な作業です。
相続人の範囲は、民法によって定められています。主な法定相続人とその順位は以下の通りです。
- 常に相続人となる者:配偶者
故人に配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人となります。 - 第一順位:子
故人に子がいる場合、子が第一順位の相続人となります。子がすでに亡くなっている場合は、その子(故人から見て孫)が代襲相続人となります。 - 第二順位:直系尊属(父母、祖父母など)
故人に子がいない場合、または子が全員相続放棄した場合に、故人の父母や祖父母などの直系尊属が第二順位の相続人となります。親等の近い者が優先されます。 - 第三順位:兄弟姉妹
故人に子も直系尊属もいない場合、または全員が相続放棄した場合に、故人の兄弟姉妹が第三順位の相続人となります。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子(故人から見て甥・姪)が代襲相続人となります。
これらの戸籍謄本等の収集は非常に手間がかかる作業であり、場合によっては司法書士や行政書士などの専門家に依頼することも検討すると良いでしょう。すべての相続人を確定させ、相続関係図を作成することで、その後の遺産分割協議をスムーズに進めるための基礎が築かれます。
2. 不動産査定の目的を明確にする
実家の不動産を相続した際、その価値を把握するために査定を行うことになりますが、査定には様々な目的があり、その目的によって適切な査定方法や求められる評価額の種類が異なります。査定の目的を明確にすることは、無駄な手間を省き、後悔のない相続手続きを進める上で非常に重要です。
2.1 相続税申告のための査定
相続が発生し、相続財産に不動産が含まれる場合、相続税の計算と申告が必要になります。この際の不動産の評価額は、「相続税評価額」と呼ばれ、一般的に市場価格とは異なる基準で算出されます。
土地の評価は、主に「路線価方式」または「倍率方式」によって行われます。路線価方式は、国税庁が定めた路線価図に基づいて計算され、倍率方式は固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算出されます。建物の評価は、原則として「固定資産税評価額」が用いられます。
相続税評価額は、相続税額を決定する重要な要素となるため、正確な評価が求められます。評価額が過大であれば相続税を払い過ぎることになり、過小であれば税務署からの指摘や追徴課税のリスクが生じます。この目的での査定は、通常、相続に強い税理士が主導し、必要に応じて不動産鑑定士に依頼することもあります。
2.2 遺産分割協議のための査定
複数の相続人がいる場合、相続財産をどのように分けるかを話し合う「遺産分割協議」が行われます。不動産を公平に分割するためには、その「客観的な価値」を把握することが不可欠です。
遺産分割協議における不動産の評価額は、相続税評価額ではなく、「時価(市場価格)」を基準とすることが一般的です。相続人全員が納得できる公正な評価額を得るために、不動産会社による無料査定や、より専門的で客観性の高い不動産鑑定士による鑑定評価が活用されます。
不動産を特定の相続人が取得し、他の相続人には金銭で補償する「代償分割」を行う場合も、この時価に基づいた査定が重要になります。相続人間でのトラブルを避けるためにも、信頼できる専門家による査定結果を基に話し合いを進めることが望ましいでしょう。
2.3 実家売却のための査定
相続した実家を相続人が誰も住まず、管理も難しいといった理由で売却を検討する場合、その不動産が「いくらで売れるのか」を知るために査定が必要となります。
この目的での査定は、「売却想定価格(市場価格)」を把握するために行われます。不動産会社に依頼するのが一般的で、無料で査定してもらえます。査定額は、物件の立地、築年数、状態、周辺の取引事例、市場の動向など、様々な要因によって変動します。
不動産会社による査定には、簡易的に算出する「机上査定」と、実際に物件を訪問して詳細に調査する「訪問査定」があります。より正確な売却価格を知るためには、訪問査定を依頼することが推奨されます。複数の不動産会社に査定を依頼し、その結果を比較検討することで、より現実的で適正な売却価格を見極めることができます。
| 査定の目的 | 主な評価額の種類 | 査定のポイント | 主な依頼先 |
|---|---|---|---|
| 相続税申告 | 相続税評価額(路線価、固定資産税評価額など) | 税務署に提出する公的な評価であり、市場価格とは異なる基準で算出される。 | 税理士、不動産鑑定士 |
| 遺産分割協議 | 時価(市場価格、客観的な価値) | 相続人間での公平な分割を目的とし、合意形成の基盤となる評価。 | 不動産会社、不動産鑑定士 |
| 実家売却 | 売却想定価格(市場価格) | 実際に売却できる価格であり、市場動向や物件の状態が大きく影響する。 | 不動産会社 |
3. 不動産査定の種類を理解する
実家の不動産を相続する際、その価値を把握するための「査定」にはいくつかの種類があり、それぞれ目的や評価基準、法的効力が異なります。適切な査定方法を選択するためには、これらの違いを正確に理解することが重要です。
3.1 税法上の評価額と市場価格
不動産の価格には、大きく分けて税金を計算するために用いられる「税法上の評価額」と、実際に取引される価格である「市場価格(実勢価格)」があります。これらは異なる基準で算出されるため、金額にも大きな差が生じることが一般的です。
税法上の評価額には、主に以下のものがあります。
- 相続税評価額(路線価・倍率方式): 相続税や贈与税を計算する際に基準となる評価額です。土地は「路線価」に基づいて評価され、路線価が定められていない地域では「倍率方式」が用いられます。建物は「固定資産税評価額」を基に評価されます。一般的に、市場価格よりも低く評価される傾向にあります。
- 固定資産税評価額: 固定資産税や都市計画税、不動産取得税、登録免許税などの算出基準となる評価額です。市町村(東京23区は東京都)が3年に一度評価替えを行います。これも市場価格よりも低い水準に設定されています。
一方、市場価格(実勢価格)とは、実際に不動産が売買される際の価格であり、周辺の取引事例、物件の状態、需給バランス、経済情勢など様々な要因によって変動します。相続した実家を売却する場合や、遺産分割協議で公平な現物分割が難しい場合に、換価分割(売却して金銭を分割)する際の基準となります。
これら税法上の評価額と市場価格の違いを以下の表にまとめました。
| 評価の種類 | 主な目的 | 評価基準 | 法的効力 | 評価額の水準(市場価格比) |
|---|---|---|---|---|
| 相続税評価額 | 相続税・贈与税の計算 | 路線価、固定資産税評価額 | 税法上の基準 | 低い |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税などの計算 | 固定資産評価基準 | 税法上の基準 | 低い |
| 市場価格(実勢価格) | 売買、遺産分割協議の目安 | 周辺取引事例、物件の状態、需給 | 法的効力なし(目安) | 変動する |
3.2 不動産会社の無料査定の活用
相続した実家のおおよその市場価格を知りたい場合や、売却を検討している場合には、不動産会社による無料査定が非常に有効です。多くの不動産会社が提供しており、手軽に利用できるのが特徴です。
無料査定には、大きく分けて「机上査定(簡易査定)」と「訪問査定(詳細査定)」の2種類があります。
- 机上査定(簡易査定): 物件の所在地、広さ、築年数などの情報から、過去の取引事例や周辺相場データに基づいて概算の価格を算出します。短時間で手軽に査定額を知ることができますが、物件の内部状況や個別要因が考慮されないため、精度は限定的です。
- 訪問査定(詳細査定): 不動産会社の担当者が実際に現地を訪問し、物件の状態(間取り、設備、リフォーム履歴、日当たりなど)、周辺環境、法規制などを詳細に確認して査定額を算出します。より正確な市場価格に近い査定額が期待できますが、現地調査の時間が必要です。
無料査定は、あくまで不動産会社が「この価格なら売却できるだろう」と判断する売却予想価格であり、法的拘束力はありません。複数の不動産会社に査定を依頼することで、より客観的な市場価格の目安を把握しやすくなります。一括査定サイトを利用すれば、複数の会社にまとめて査定を依頼でき、効率的に比較検討を進められます。
3.3 専門家による不動産鑑定評価
客観的かつ公平な不動産の価格が必要な場合、例えば、遺産分割協議で相続人間に意見の対立がある場合や、裁判所での調停・審判、あるいは会社法上の現物出資など、法的根拠を伴う価格が求められる場合には、不動産鑑定士による「不動産鑑定評価」が最も信頼性の高い方法となります。
不動産鑑定評価は、不動産鑑定士が「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づき、高度な専門知識と豊富な経験を用いて、様々な要因を総合的に分析し、その不動産の経済価値を判定するものです。鑑定評価書は、公的な証明力を持ち、裁判所や税務署などでも通用する唯一の価格証明となります。
ただし、不動産鑑定評価は、無料査定とは異なり、費用が発生し、評価書の作成にも一定の期間が必要です。そのため、その必要性や費用対効果を十分に考慮して依頼を検討することが大切です。相続税申告において、税務署から相続税評価額の根拠が不明確であると指摘された場合など、特殊なケースでは不動産鑑定評価が有効な場合があります。
4. 不動産査定を依頼する準備と流れ
実家の不動産相続において、査定は重要なプロセスです。適切な査定を受けるためには、事前の準備と流れを理解しておくことが不可欠です。ここでは、不動産査定をスムーズに進めるための具体的なステップと、査定結果を最大限に活用する方法について解説します。
4.1 査定に必要な書類を揃える
不動産会社に査定を依頼する際には、対象となる不動産の情報を正確に伝えるために、いくつかの書類が必要となります。これらの書類を事前に準備しておくことで、査定プロセスを円滑に進めることができます。主に必要となる書類は以下の通りです。
| 書類の種類 | 内容と目的 |
|---|---|
| 登記簿謄本(登記事項証明書) | 不動産の所有者、所在地、地目、地積、建物の構造、床面積などの基本情報や、抵当権などの権利関係が記載されています。不動産の法的状況を確認するために必須です。 |
| 公図・地積測量図 | 公図は土地の位置や形状、隣接地の状況を示す図面です。地積測量図は土地の正確な面積や境界線が示されており、土地の評価に影響します。 |
| 建物図面・各階平面図 | 建物の配置や間取り、部屋の広さなどが記載された図面です。建物の構造や利用状況を把握するために重要です。 |
| 固定資産税評価証明書または納税通知書 | 固定資産税の評価額が記載されており、不動産の公的な評価額の目安となります。相続税の計算の基礎となることもあります。 |
| 建築確認済証・検査済証 | 建物が建築基準法に適合していることを証明する書類です。建物の適法性を確認するために必要です。 |
| 間取り図・物件パンフレット | 購入時のパンフレットや間取り図があれば、より詳細な物件情報として査定に役立ちます。 |
| リフォーム履歴がわかる資料 | 過去にリフォームや増改築を行っている場合、その内容がわかる資料があると、物件の価値を正しく評価してもらいやすくなります。 |
これらの書類は、法務局や市区町村役場、またはご自宅で保管されているものから収集することができます。不足している書類がある場合は、取得方法を事前に確認しておきましょう。
4.2 複数の不動産会社に査定を依頼するメリット
不動産査定は、複数の不動産会社に依頼することをおすすめします。これは、単に査定額を比較するためだけでなく、様々なメリットがあるからです。
- 適正な査定額の把握:不動産の査定額は、会社の得意分野や査定方法、市場の読み方によって異なる場合があります。複数の会社から査定を受けることで、実家の不動産のより客観的で適正な市場価格を把握しやすくなります。
- 査定根拠の比較検討:各社が提示する査定額には、それぞれ根拠があります。どのようなデータに基づき、どのような要素を評価してその金額になったのかを比較することで、不動産会社ごとの専門性や分析能力を見極めることができます。
- 担当者の対応や提案力の評価:不動産売却は、担当者との信頼関係が非常に重要です。複数の担当者と接することで、コミュニケーションの取りやすさ、知識の豊富さ、売却戦略の提案力などを比較し、安心して任せられる会社を選ぶことができます。
- 売却戦略の幅を広げる:不動産会社によっては、得意とする販売チャネルや顧客層が異なります。複数の会社から話を聞くことで、多様な売却戦略や販促活動の提案を受け、実家に最適な売却方法を見つけるきっかけになります。
一括査定サイトなどを活用すれば、一度の入力で複数の不動産会社に査定を依頼できるため、手間をかけずに比較検討を進めることが可能です。
4.3 査定結果の見方と活用方法
複数の不動産会社から査定結果が出揃ったら、単に金額の大小だけで判断するのではなく、その内容を深く理解し、適切に活用することが重要です。
4.3.1 査定結果の見方
査定書には、単なる査定額だけでなく、その金額の根拠が詳細に記載されています。以下の点に注目して確認しましょう。
- 査定額の幅:提示された査定額が、どのような範囲で設定されているかを確認します。最高額だけでなく、最低額や平均額も参考にすることで、より現実的な売却価格の目安が見えてきます。
- 査定根拠:周辺の類似物件の取引事例、公示価格や路線価、築年数、立地条件、建物の状態、設備、修繕履歴などがどのように評価されているかを確認します。査定額が妥当であるかを判断する上で重要な情報です。
- 市場の動向:現在の不動産市場が売り手市場なのか、買い手市場なのか、あるいは地域特有の需要があるのかなど、市場の動向が査定額にどう影響しているかを確認します。
- 物件の強みと弱み:不動産会社が、実家の物件のどのような点を強みとして評価し、どのような点を弱みとして指摘しているかを把握します。これは、今後の売却活動におけるアピールポイントや改善点を検討する上で役立ちます。
4.3.2 査定結果の活用方法
査定結果は、相続における様々な局面で有効に活用できます。
- 遺産分割協議の目安:相続人が複数いる場合、実家の不動産をどう分けるかは大きな問題です。査定額は、公平な遺産分割協議を進める上での客観的な基準となります。
- 相続税申告の準備:相続税の計算には、不動産の評価額が必要となります。査定額は、相続税申告における不動産評価の参考として活用できます。ただし、相続税評価額は税法上の計算に基づき、市場価格とは異なる場合があるため、税理士と相談して最終的な評価額を確定することが重要です。
- 売却戦略の立案:実家を売却する予定がある場合、査定額を基に具体的な売却価格や販売期間を検討します。また、不動産会社の提示する売却戦略(販売方法、広告媒体、リフォームの提案など)を比較し、最も効果的なプランを選択することができます。
- 媒介契約の選択:査定結果と不動産会社の提案を踏まえ、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約のいずれを結ぶかを検討します。それぞれの契約形態にはメリット・デメリットがあるため、自身の状況や希望に合ったものを選びましょう。
査定結果はあくまで「査定額」であり、実際の売却価格は市場の状況や交渉によって変動する可能性があります。しかし、これらの情報を総合的に判断し、自身の目的(相続税対策、遺産分割、売却など)に合致した最適な選択をすることが、実家の不動産相続を成功させる鍵となります。
5. 実家の不動産相続で注意すべき点
実家の不動産相続は、相続税の申告や遺産分割協議、そして空き家となった実家の管理・売却など、多岐にわたる課題を伴います。これらの注意点を事前に把握し、適切な対策を講じることが、スムーズな相続手続きと将来的なトラブル回避に繋がります。
5.1 相続税の計算と納税の準備
実家を相続した場合、相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超える場合、相続税の申告・納税義務が発生します。不動産の評価額は相続税額に大きく影響するため、正確な評価額の把握が非常に重要です。不動産の評価には、国税庁が定める路線価方式や倍率方式が用いられますが、実際の市場価格とは異なる場合がある点に注意が必要です。
特に、居住用不動産には「小規模宅地等の特例」が適用される場合があります。この特例を適用することで、一定の要件を満たせば、宅地の評価額を最大80%減額できるため、相続税額を大幅に軽減できる可能性があります。適用要件は複雑なため、税理士などの専門家に相談し、適用可否を確認することが不可欠です。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限内に申告と納税を完了させる必要があります。納税資金が不足する場合には、延納や物納といった制度も検討できますが、これらも厳格な要件が定められているため、早めに準備を進めることが肝要です。
相続税の計算と納税準備のポイントを以下にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 評価方法 | 路線価方式、倍率方式(国税庁の評価基準) |
| 特例制度 | 小規模宅地等の特例(居住用宅地の評価額を最大80%減額) |
| 申告期限 | 相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内 |
| 納税方法 | 現金一括払いが原則、延納・物納も検討可能 |
| 専門家 | 税理士への相談が必須 |
5.2 遺産分割協議がまとまらない場合の対処法
実家を含む遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しません。感情的な対立や、不動産の評価額、分割方法(現物分割、換価分割、代償分割など)に関する意見の相違から、協議が難航することは少なくありません。協議がまとまらないまま放置すると、不動産が共有状態となり、管理や売却が困難になるだけでなく、将来的なトラブルの火種となる可能性があります。
遺産分割協議が膠着状態に陥った場合、まずは弁護士や司法書士といった専門家に相談し、客観的なアドバイスや法的な視点からの助言を求めることが有効です。専門家が間に入ることで、冷静な話し合いの場が設けられることもあります。
それでも解決しない場合は、家庭裁判所における「遺産分割調停」を申し立てることができます。調停では、調停委員が相続人間の意見調整を図り、合意形成を促します。調停でも合意に至らない場合は、「遺産分割審判」へと移行し、裁判官が一切の事情を考慮して分割方法を決定します。これらの手続きには時間と費用がかかるため、できる限り協議段階での解決を目指すことが望ましいでしょう。
5.3 空き家になった実家の管理と売却
相続した実家が空き家になった場合、その管理には様々な問題が伴います。誰も住まなくなった家は、急速に劣化が進みやすく、防犯上のリスクも高まります。また、固定資産税や都市計画税といった税金は所有者に課され続け、適切な管理を怠ると近隣住民とのトラブルに発展する可能性もあります。例えば、雑草の繁茂、不法投棄、害虫の発生などが挙げられます。
「空き家対策特別措置法」により、適切な管理がされていない空き家は「特定空き家」に指定されることがあり、その場合、固定資産税の優遇措置が解除され税負担が増加するなどのペナルティが課される可能性があります。
空き家になった実家の選択肢としては、賃貸に出す、売却する、あるいは解体して更地にする、といった方法が考えられます。特に売却を検討する場合、相続した空き家を売却する際に「被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」(いわゆる空き家特例)が適用できる可能性があります。これは、一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度であり、譲渡所得税を大幅に軽減できる可能性があります。この特例も適用要件が複雑なため、不動産会社や税理士と連携して進めることが重要です。
実家を売却する際は、複数の不動産会社に査定を依頼し、適正な売却価格を見極めることが肝心です。また、媒介契約の種類(専任媒介、一般媒介など)や、売却活動の内容についても十分に確認し、納得のいく形で売却を進めましょう。
6. まとめ
実家の不動産相続は、法務・税務・不動産の専門知識が求められる複雑な手続きです。相続発生時の初期対応から、相続税申告、遺産分割、売却といった目的を明確にした上で、適切な不動産査定を行うことが、円満かつ円滑な相続を実現する上で不可欠です。査定目的を明確にし、複数の不動産会社の無料査定を活用しつつ、必要に応じて不動産鑑定士や税理士、弁護士といった専門家へ早期に相談することが、トラブルを避け、最適な解決策を見出すための賢明な選択です。事前に情報を収集し、計画的に準備を進めることで、後悔のない相続を迎えましょう。
